1.1979年~1997年 ー どうして積極的に投資しなかったか ー
1997年まで私の資産運用には、投資戦略と言える程のものがありませんでした。時代背景から必要なかったのです。就職してから19年間はインフレ率がプラスでも、預金金利はそれを上回り実質金利はプラスでした。しかも長期に複利運用すれば、リスクを伴う投資よりもリターンが高かったのです。長期信用銀行の金融債や郵便局の定額貯金は、年利が5%~10%の固定金利で複利運用されていたからです。バブルが弾けた頃に銀行員の方から聞いた話ですが、金融債の固定金利が10%近くまで上昇した際、1億円を鞄に入れて持ち歩きATMから入金するお客様がいらして、100万円単位で帯封を付けたまま入金されるので、ATMが良く壊れたそうです。それぐらい金利の高い時代でした。こんな時代背景でしたから、私よりも高齢の日本人に投資をしようと呼びかけても反応は鈍いのです。1990年バブル崩壊もトラウマとなっていますが、個人一般にとってはこちらの方が影響は大きかったと思います。
2.1998年~2019年 ー デフレに対応した投資戦略を振り返る ー
その後15年間(1998年~2012年)金利は略ゼロになりましたが、デフレでインフレ率はマイナスですから、実質金利はその分プラスでした。デフレだから何もしない方が良い、黙っていても金融資産の価値は上がって行く。確かにそうなのですが、利息が略ゼロの預金通帳を何年も見ていると、さすがに段々と気持ちが投資に傾いてきました。また、金融資産を殆ど持っていない若い頃は、預金や会社の持株会を長期に積立てする事だけに何の疑問も抱いていませんでしたが、ストックが貯まってくるに従いその気持ちが変化してきました。そこで、生活費を除いたフロー収入は預金を継続しましたが、初めてストックの一部を投資する事にしました。
最初に考えた事は、当たり前ですが「価格が変動する金融商品は、安くなった時に買い高くなった時に売る」でした。即ち逆張りです。ファンドマネージャと違い長期運用が前提なので、一時的に評価損が発生しても焦ることなく待てるからです。なので、社会的・経済的には大変なのですが、リーマンショックをトリガーとした金融危機による株価大暴落は投資のチャンスでした。中学校の社会科の先生が、生涯に数回は株式投資のチャンスが来るよ、と教えてくれた事を思い出しました。確かに過去を振り返ると、10年に1回程度は何らかのトリガーで株価が大暴落し、少し時間を要しても相場はその後戻っています。1990年日本のバブル崩壊だけは、30年経った今も相場が戻っていませんから、日本人が投資に対しトラウマになるのも仕方ありません。
サブプライム~リーマンショックの時にストックの10%~20%を投資資金に設定し、底値(記憶では概ね半値)近くまでTOPIX ETFを何回か分けて購入しました。確か3回の底値があったと記憶していますが、落ちてくるナイフをつかみつつも、最後の底値近くまで買い続けることができました。無知で投資のセオリーを無視しましたが、+20%利益確定できましたからラッキーでした。ですが2013年以降、日本銀行による+2%インフレを目指した金融緩和が継続していますから、手仕舞いが早過ぎました。また、少し遅れて円高も進んでいましたので、かねてから考えていた通貨のリスク分散のため、金融資産の30%をユーロとドルのMMFにしました。こちらは円換算で+40%の為替差益となりましたが、利益を得たのではなく、通貨のリスクヘッジをしただけだと考えています。
デフレでは基本的に何もせず、こういう時だけを狙って投資すれば良いと考える様になりました。昨年のコロナショックの際も金融危機の時と同様の戦略で投資をし、+20%の利益を確定しましたが、今回も手仕舞いが早過ぎました。二番底を意識し過ぎた結果です。確かに何もしないよりはましですが、それではグローバルに目を向けていません。日本はデフレでも海外はインフレが当たり前だからです。一昨年、22年振りにイタリアを旅行しましたが、物価が円換算でも2倍以上になっていました。経常収支が黒字でデフレの国の通貨なのに円高にならず、通貨の価値が低下していることになり、日本人は貧しくなったんだと感じました。投資戦略を見直しすることにしたのは、その様な背景からです。
3.2020年〜 投資戦略の見直し ー デフレからインフレ対応に ー
資産運用における私の目標は、最低でも実質金利プラスで運用する。即ち、金融資産の価値が下がらない様にすることです。2020年第一四半期までは、先に述べたデフレに対応した投資戦略でその目標は達成できましたが、日本でも今後は難しいと考えています。コロナショック後、全ての先進国はインフレ目標+2%を目指し、金融政策と財政政策を総動員しているからです。私が投資戦略を見直すことにしたのは、先に述べた背景とこの環境変化によります。
投資戦略を見直しインフレ対応にするとは、具体的にどうすることなのか考えました。証券会社の営業マンであれば「預金を止めて積極的に投資しなさい」と言うでしょう。私の出した結論は「年齢や金融資産の額などを考慮し、自分の状況に合わせたポートフォリオを決定する。そして最適な投資方法でそのポートフォリオを実現する」です。
(3-1)ポートフォリオを決定する
・私は来年1月に65歳になり、公的年金が満額支給となります。企業年金の支給が85歳までなので、それまでは年金だけで生活できると判断しました。なので、現在の金融資産全額をポートフォリオの対象と決めました。次にリスクを考慮した資産配分を行います。
・価格が変動しない安全資産と変動するリスク資産の比率を1:1としました。 85歳以降の生活費用を考慮した結果です。安全資産50%は、国が元本保証しインフレ率に応じて金利が変動する個人向け国債変動10年にしました。リスク資産の方ですが、25%を株式とFXで、25%を金ETFで運用することにしました。金ETFへの投資は通貨に対するリスクヘッジ、リスクオフによる株価暴落リスクの影響を軽減するためです。株式とFXの銘柄は臨機応変に見直しするつもりです。
(3-2)最適な投資方法を考える
・最初に、過去のデフレ対応の投資行動を反省しました。「落ちてくるナイフはつかむな」「魚の頭と尻尾はくれてやれ」と言ったセオリーを無視し、テクニカル分析も行わず、自己流で投資をしてきました。具体的に振り返ります。
・リーマンショックやコロナショックの様な明確な原因で暴落していると判断できた時は、25%~30%程度まで下落した所から底値近くまで、少しずつ先進国株式インデックスファンドとTOPIX ETFを購入しました。落ちてくるナイフをつかんでいたことになります。ですが底値を打つ際は、必ずFRB議長の発言など要因があり、それを契機に市場が落ち着くことも分かりました。それを見逃さないことが重要だと思います。少しぐらい遅くなっても「魚の尻尾はくれてやれ」です。
・売却でも反省する点がありました。+20%程度の評価益を達成すると、全てを売却してしまい手仕舞いが早過ぎました。金融相場のフェーズだけで判断してしまい、相場の大局観が全く欠如していました。以上の経験してきたことを基に、今後どの様な方法とスタイルで投資に臨むのか、具体的に考えてみます。
・就職したばかりの若者であれば、先ず収入の一部を毎月「長期に積立て・分散投資」するのが基本です。次に信用取引ができる程度の委託保証金が蓄えられたなら、長期の積立て投資とは別に短期の投資にチャレンジしてみるのも良いかと思います。一方で私の様な年金生活者でも、蓄えて来た金融資産の一部を毎月「長期に積立て・分散投資」することはできます。ですが既に投資する資金はあるわけですから、単純に積立てするだけでは残りの資金を遊ばせることになり非効率です。やはり、自分の状況にフィットした方法を考えるしかありません。私の場合は、以下の様にしました。
・価格が変動しない個人向け国債変動10年は、既に比率を50%にしました。価格が変動する金ETFの目標比率25%は、その60%までを既に購入しました。昨年7月から少しずつ購入してきましたが、今年第一四半期の急落がありましたので、一気にここまで進めました。残り40%はNISA口座で定額を毎月積立てしつつ、急落時は一気に目標額まで進めます。その際に忘れてならないのは、テクニカル分析だと思います。投資した金額の30%は短期売買を可能とし、利益確定売りをしたり買戻しをしたりするからです。以前は逆張り戦略だけでしたが、今後は順張り戦略もプラスし、短期での小さな利益も拾っていきます。
・株式+FXの目標比率25%は、資金の比率を株式70%、FX30%とし投資を開始しました。配当、PER、PBR等から長期に投資できそうな割安株に少しづつ投資しながら、その内50%は短期売買を可能としました。何かをトリガーとした大暴落の際には、底値を見極め株式のために準備している資金全額を投資します。FXでは今年年初からの米長期国債の金利上昇に伴うドル高円安を見誤り、証拠金の10%程度をロスカットしましたが、イールド拡大に伴い逆相関関係で上昇していた銀行株ETFで相殺できました。
・投資戦略を見直してきたこの一年間、実際に売買を繰り返しながら感じたことを最後に述べます。ここまでの投資結果ですが、価格が変動する金融商品のために用意した投資資金に対する評価損益が±5%のレンジで膠着し、なかなかプラスに定着しません。現在は未だ設定したポートフォリオになっていないため、保有比率が高い金ETFの価格に影響を受け易いことが原因ですが、短期売買で相場の流れに乗れた時は気分良くしています。これからも楽しみながら投資したいと思います。